エビデンスとは、特に医学分野において「科学的根拠」といった意味で使われる言葉です。
医療行為を行う上で、科学的根拠は欠かせません。
医者が個人的に「理由はないけどこれがいい気がする」といった感じで治療をしては困るわけです。
きちんと科学的根拠に基づいて物事を判断していくことは大切です。
人は目の前の「それっぽい物事」をついつい信じてしまいがち。
エビデンスを意識することは有意義な意思決定に必要不可欠です。
近年はエビデンスという考えは医療だけでなく教育や各分野に広がりつつあります。
例えば10人を対象にした研究と1万人を対象にした研究では、1万人を対象にした研究のほうが信頼できそうです。
このように、科学的根拠にも、その調べ方で信頼度は様々です。
科学的根拠の高さをエビデンスレベルと言います。
エビデンスレベルは以下のような8段階があります。
1a:ランダム化比較試験のメタアナリシス
1b:少なくとも一つのランダム化比較試験
2a:ランダム割付を伴わない同時コントロールを伴うコホート研究
2b:ランダム割付を伴わない過去のコントロールを伴うコホート研究
3:ケース・コントロール研究
4:処置前後の比較などの前後比較,対照群を伴わない研究
5:症例報告
6:専門家個人の意見(専門家委員会報告を含む)
1aが最もエビデンスレベルが高い。つまり最も信頼できるレベルです。
ランダム化比較試験のメタアナリシスとは、以下のような実験方法です。
①実験に参加する人達は、偏りのないランダムに集められた人達です。
②その人達をランダムに2つのグループに分けます。
③2つのグループのうち1つに実験で試したい内容を施行し比較します。
④評価者は、どちらのグループが実験内容を施行されたか知りません。
(つまり先入観で判断はできないわけです)
⑤このような実験を複数機関で行い、結果を統合します。
以上のように、実験に手間はかかりますが、研究者の主観が入らない非常に客観的な研究であることがわかります。
上記を満たしているのが「1a」になります。
また①~④を満たしてはいるが、実験回数は乏しい、つまり⑤を満たしていないものが「1b」です。
さて、科学的根拠を確かめる際は上記のような1aや1bの実験をすることが望ましいです。
しかし1aや1bのように調査対象をランダムに集めることができない場合もあります。
調査したい内容によっては年代や性別が偏ってしまったり、資金面で思うように調査対象者を集めることができない場合もあるでしょう。
調査対象のランダム性にはやや欠けますが、実験内容自体はきちんとしているものが「2a」です。
また、ある時期に1つの調査対象を見つけて、また別の時期に別の調査対象を見つけるといった比較対象の時間軸がズレている場合は「2b」です。
また、2aと2bは「前向き研究」とも言われます。
前向き研究とは調査対象者をその後も追跡調査することです。
例えば薬の効き目などを5年後10年後も副作用が出ていないか調べる場合などです。
前向き研究とは追跡調査をするような研究であることは先ほど述べました。
反対に、過去にさかのぼる研究を後ろ向き研究と言います。
例えば糖尿病になった人とそうでない人が過去1年でどのくらい糖分を摂っていたか調べるような場合です。
エビデンスレベルの「3」であるケース・コントロール研究とはこの後ろ向き研究のことです。
1a、1b、2a、2b、3はいずれも「比較」がされた研究です。
科学的根拠において比較は大切です。
例えば「甘い物を食べると疲れがとれる」ということを研究したければ、
「甘い物を食べたグループ」と「食べなかったグループ」で疲労度を比較して調べないといけません。
エビデンスレベルの「4」とはこの比較がされていない研究のことです。
つまり甘い物を食べた人の様子しか観察していない研究です。
エビデンスレベル「5」はさらに対象が狭くなります。
症例報告、つまり「5」は個別事例です。
「○○さんに甘い物を食べてもらったら、疲労が回復しました」といった感じです。
さらに「5」はもう実験すらしてない。
専門家個人の意見が「5」です。
「私が思うに、甘い物を食べると人は疲労が回復すると思うんです」といった感じです。
科学的根拠にも様々なレベルがあります。
どれが良くてどれが悪いということではなく、
大切なのはエビデンスを見極める力です。
ただでさえ情報が溢れている世の中です。
科学的根拠を考える力は、情報を取捨選択する上で必要になります。
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