「お笑い」というソーシャルスキルの教材
発達障害の専門書や専門家じゃなくても、発達障害に役立つ知見を得られることは度々あります。
発達障害の話題や考察でなくても、それを発達障害に照らし合わせて考えるととても参考になることがあります。
「お笑い」もそのひとつではないでしょうか。
笑いには「皮肉」や「比喩」が巧みに使われます。
人の情緒を理解し共感力が「お笑い」を楽しむためには必要です。
「お笑い」を理解することは人間の繊細な感情の機微を学ぶことに役立ちます。
松本人志さんとジャリズム山下さん
日本で知らない人はいないであろうお笑いのトップの一人、ダウンタウンの松本人志さん。
その発想や着眼点は常に世間を驚かせています。
彼の考察で発達障害に通じる考えがあったのでとりあげます。
それは「放送室」でのトークの一部です。
放送室とはダウンタウンの松本人志さんと、幼馴染であり放送作家の高須光聖がトークをするラジオ番組です。
2009年まで放送されていた人気番組です。
今回とりあげたのは2003年に放送されたもので、松本さんが後輩のお笑い芸人であるジャリズムのオモロー山下さんのことについて語ったものです。
内容としては山下さんが舞台で笑いをとれていない、台本を覚えられないことについて述べたものです。
漫才という掛け合いをね、記号化してるねん。だから覚えられへんねん。
星型、丸型、三角みたいな覚え方しかできへんねん。
(中略)
ここで普通ならこういう、笑いを考えたらこうきたらこういくやろうっていう、その公式がないから。俺らなんかは一回聞いたら覚えるやんか。(中略)別に記号で覚えているんじゃなくて自然として体に反応として埋め込んでいくやんか。
違うんや。(山下は)「星型、星型、えっと、なんや、三角、ハート」みたいな覚え方をするから、「あー、三角の次なんやったけ」みたいなことやんか。
山下さんは発達障害ではありませんし、松本さんも発達障害について言及しているわけではありません。
あくまで山下さんという「要領の悪い人」に対しての松本さんの考察です。
しかしながら発達障害やグレーゾーンの方、不器用な方や自分は要領が悪いと思う方はこの山下さんの状況にけっこう共感できるのではないでしょうか。
人間関係や人の情緒などに対する対応は本来前後関係を考えてケースバイケースでやらなといけないけれど、その前後関係がピンとこない。
ピンとこないけどしないといけないから教科書を丸暗記したようなやり方しかできない。
「元気よくあいさつをするのは良いこと」というのを丸暗記するように覚えてしまい、お葬式などの場面でも元気にあいさつをしてしまう。
一般的には「元気よくあいさつをする」のは良いことだけどそれも状況によるということがわかります。
さらに「どのような状況のときは元気にあいさつすべきではないのか」というのも状況を見ればわかります。
しかしコミュニケーションや社会性に困難さがあると、まさに「元気よくあいさつをするのは良いこと」を記号として覚えます。
丸暗記だから応用がききません。状況に合わなかったときも「だって元気にあいさつするのは良いことって言ったじゃないですか」と感じてしまいます。
おわりに〜本質的に理解することは大切〜
物事を学習するときに「本質的に理解できているか」と自分に問うことは大切な習慣です。
丸暗記はその場では対応できるかもしれませんが、応用がききません。
応用がきかないと「似ているけれど違う状況」で対応できません。
コミュニケーションが苦手な方、ソーシャルスキルが低い方はこの「似ているけれど違う状況」に対して自分の言動を微調整することが苦手なのです。