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対象の永続性の獲得
「対象の永続性」とは、対象物が(例えば布なのでおおわれて)見えなくても、そこに「ある」ことがわかる概念です。
対象の永続性はおおむね0歳台で獲得されると考えられており、生後8か月頃には布で隠された物を探すことができます。
では、それ以前の乳児は対象をどのように認識しているのでしょうか。
これには諸説あり、以下のようなものがあります。
解説
物体が他の物体の内側にあるという概念の未熟さ
対象の永続性課題に失敗する子供は、物体が他の物体の内側にあることを理解できていないという説があります。
つまり物が布の内側にある可能性というのを理解できていないということです。
これは対象の永続性がない、つまり「物は隠されてもそこから消えたわけではない」ということが理解できないこととは微妙に異なると言えます。
知覚-運動技能の未熟さ
別の説に、知覚-運動技能の未熟さが挙げられます。
布の下の物を探せないのは、対象の概念が未発達なのではなく、単に布を取り除く知覚-運動技能が未熟であるという考え方です。
この説を支持する実験もあります。
乳児が興味のある物を、紙カバーあるいは布カバーで隠して反応を見る実験です。
紙カバーのほうが布カバーよりも扱いやすくなっており、それぞれ物を探し出す難易度が異なります。
生後5か月の乳児(従来は「対象の永続性課題」が難しいと考えられていた月齢)は、布カバーの中の物は探すことができませんでしたが、紙カバーの中の物は探し出すことができたそうです。
このように、物体を探し出すことに十分な運動技能やモチベーションがあれば、0歳前半の乳児でも対象の永続性課題を成功できる可能性が示唆されています。
人の認知面の発達において非常に興味深い対象の永続性ですが、少なくとも獲得前は永続性を理解しておらず概念獲得後は永続性がわかるという単純な0と100の問題ではないことがわかります。
参考資料
『対象の永続性課題におけるカバーの効果』(一般社団法人 日本教育心理学会)2023年7月15日閲覧