スラックとは?
心理学や行動経済学における「スラック」とは、冷静な判断を行うための心のゆとりのようなものを指します。
人は欠乏(時間がない、お金がないなど)によって意思決定の質が変わってしまうことがわかっています。
このため行動経済学者のセンディム・ムッライナタン氏らは、スラックの重要性を説いています。
研究
欠乏による心の占拠
高額なお金の工面の問題を抱えた際、比較的低所得の被験者はレーヴン漸進的マトリックス検査の成績が下がったそうです。
この際の成績低下は一晩眠っていない状態よりも大きく、欠乏がいかに人の心に影響を与えるかがわかります。
お金がない・時間がない・スペースがないなど欠乏は人の心を占拠し、冷静な判断力を奪ってしまう可能性があります。
スラック(余裕)の重要性
このためムッライナタン氏らは心のゆとりとも言えるスラックの重要性を説いています。
そして氏らはこのスラックは意図的に残しておいたスペースではなく、豊かさからの副産物を指すとしています。
解説
「余裕がないと冷静でいられないから、余裕を持つことは大切である」
というのは非常に当たり前のことのように思えます。
しかし、この「余裕」とは意図的に作ったものではなく副産物的なものであることが重要であるということに一定の示唆があります。
つまりなぜ余裕が必要かと言えば、それは物理的な意味だけでなく心のゆとりを作り冷静な認知力を保つためです。
しかしそれには、意図的に作った「カツカツな余裕」では効果を発揮できません。
例えば、何となく財布の中に余った1万円があると、買い物の際にゆとりを持った判断ができるでしょう。
しかしこれが同じ財布の中の1万円でも、何か月もかけて爪に火をともす思いで貯めた1万円だったとしたら、とても気楽に使うことはできないでしょう。
もちろん一生懸命貯めた1万円は価値のあるものですが、それゆえに気楽に使えず心のゆとりという意味ではなんとなくある1万円のような効果はないかもしれません。
このように、人が冷静でいられる「ゆとり」を作るためには、カツカツの中で生み出すのではなく副産物のようなものであることが重要です。
例えば仕事をハイペースで進めて時間を生み出すことも大切ですが、それとは別に自分が無理なくこなせる仕事量を見極め、断ったり周囲に協力を求めたりすることで生み出す余裕も必要かもしれないということです。