心の理論をわかりやすく
心の理論とは、相手の立場になって考える能力についての理論です。
心理学や医学・教育学において、発達障害の研究でよく題材として挙がります。
何をもって「相手の立場になって考えることができている」とするかは定義が難しいものです。
心の理論では「誤信念の理解」をその目安としています。
「誤信念」は「ごしんねん」と読みます。
解説
サリーとアン課題
心の理論についての有名な問題で「サリーとアン課題」というものがあります。
問題は以下のようになります。
サリーとアンが部屋で遊んでいます。
サリーはボールをカゴの中に入れて部屋を出ました。
サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移しました。
サリーが戻ってきてボールを探すとき、どこを探すでしょう?
この問題の答えは当然ながら「カゴの中を探す」になります。
なぜならサリーはアンがボールを移したことを知らないため、先ほど自分が入れたカゴの中にボールがあると思っているからです。
問題を出された人は、アンがボールを箱に移した一連の流れを俯瞰して知っています。
しかしながらこの問題はあくまで「サリーはどこを探すでしょう」というサリーの視点に立って考える必要があります。
誤信念の理解
サリーとアン課題のような心の理論に関する問題を「誤信念課題」と言います。
誤信念とは文字通り誤った信念を指します。
サリーはボールが本当は箱の中にあるにも関わらず、カゴの中にあると思い込んでいました。
これは客観的に見ると間違っていることですが、サリーの視点に立てばそう思うのも仕方ありません。
こういった他者の誤信念を読み取れるか否かを問われるのが誤信念課題です。
心の理論の理解は誤信念の理解が必要となります。
ちなみに誤信念課題はその難易度によって一次的誤信念課題(標準誤信念課題)と、二次的誤信念課題があります。
心の理論と発達障害
サリーとアン課題に代表される誤信念課題は、定型発達の場合おおむね4歳頃から正答できるようになります。
このため定型発達において心の理論は4~5歳頃に獲得されると考えられています。
一方で、自閉症スペクトラム障害児は知的に遅れがなくても誤信念課題の通過率が定型発達児よりも遅い傾向があります。
このような背景から、発達障害の研究において心の理論は興味深いものとなっています。
ただし、自閉症スペクトラム障害のコミュニケーション障害は、心の理論だけが原因というわけではありません。
誤信念課題に正答できる自閉症スペクトラム障害児もおり、「自閉症は心の理論が欠如した障害」という認識は誤りであることも押さえておかなければなりません。
補足記事
参考資料
『嘘を求められる場面での幼児の反応 : 誤信念課題との比較から』(日本発達心理学会 J-STAGE)2020年9月7日検索
『自閉症児への「心の理論」指導研究に関する行動分析学的検討』( 心理学評論刊行会 J-STAGE)2020年9月7日検索
『心の理論の生涯発達における実行機能の役割』(心理学評論刊行会)2021年11月6日検索