発現説と表現説
心の理論と実行機能には関連があると考えられています。
この関係性について「発現説」と「表現説」が考えられますが、どちらであるかはまだ解明されていません。
しかしながら予測としては
実行機能は心の理論に対して表現説的な役割を果たしているのではないかと考えられます。
解説
心の理論と実行機能
心の理論と実行機能にはなんらかの関係があるとする見方が多いです。
心の理論とは、相手の立場になって考えることができる能力のことであり、もう少し専門的に言うと誤信念の理解を意味します。
実行機能とは、その人がその目標を達成するための、思考や行動を制御する認知システムを指します。
発現説とは?
心の理論の獲得には実行機能の発達が必要であるとするのが「発現説」の考え方です。
これは別の言い方をすると、実行機能は心の理論獲得の「きっかけ」を与えるだけとする見方です。
心の理論が一度獲得されれば、実行機能は心の理論に影響しないという立ち位置をとります。
知的に遅れのない自閉症スペクトラム障害児(ASD)よりも、多少知的に遅れがあってもダウン症児のほうが誤信念課題に正答する傾向があります。
発現説はこういったケースの解釈と相性がいいです。
発現説は心の理論と実行機能がそれぞれ独立した能力であることを示しています。
表現説とは?
一方で、心の理論の能力を使う際には実行機能が必要であると考えるのが「表現説」です。
実行機能が衰える高齢者は、若年より誤信念課題の成績が落ちる傾向にあるとする説が研究では多いです。
また前頭葉損傷患者についても同様の傾向があります。
このように、実行機能が低下すると心の理論に関わる課題の成績が低下することから、実行機能が心の理論使用に影響している「表現説」が成り立ちます。
発現説と表現説のどちらか?
心の理論と実行機能の関係において、発現説と表現説どちらなのかは解明されていません。
現状としては、心の理論の獲得に実行機能は関係しているが、その後の使用においても関連性があるとする考えが無難です。
つまり両方の説が関連しているという解釈です。
また他の考えとして、「子供の頃の心の理論に関する脳機能と、大人の心の理論の脳機能はそもそも異なる」という説も興味深くはあります。
補足記事
参考資料
『心の理論の生涯発達における実行機能の役割』(心理学評論刊行会)2021年11月6日検索
『幼児版ストループ課題の作成』(公益社団法人 日本心理学会)2021年11月6日検索
『幼児における「心の理論」と実行機能の関連性 : ワーキングメモリと葛藤抑制を中心に』(一般社団法人 日本発達心理学会)2021年11月6日検索
『実行機能の初期発達,脳内機構およびその支援』(心理学評論刊行会)2021年11月6日検索
『幼児における「心の理解」の指標としての嘘をつく行為と葛藤抑制能力との関連』(公益社団法人 日本心理学会)2021年11月8日検索