ワーキングメモリ

ワーキングメモリトレーニング理論の課題と問題点

公開日:2022年9月23日


 
 

ワーキングメモリトレーニングの問題点

 ワーキングメモリを向上させるトレーニング方法はまだ確立されていないのが現状です。

 個々の研究では効果があったものもありますが、様々な研究を比較・高い視点で分析(メタアナリシス)した場合、確実なエビデンスが得られているとは言い難い状況です。

 ワーキングメモリのトレーニング方法が確立されていない背景の1つに、理論自体の問題点があります。

 
 
 

解説

ワーキングメモリのトレーニング

 ワーキングメモリのトレーニングは様々ですが、そのうちの1つに、ワーキングメモリの容量自体を高めて知能全体を上げる「コアトレーニング」があります。

 コアトレーニングは筋力トレーニングのように、ワーキングメモリに適切な負荷(課題)をかけることで力を伸ばそうとするする試みです。

 これは感覚的にはイメージしやすいものの、もちろんワーキングメモリをはじめとした認知機能は筋力ではありません。

 筋肉のように負荷をかけることで認知機能が向上する保証はないわけです。

 このためワーキングメモリのトレーニングには、適切な負荷(課題)を行うことでなぜワーキングメモリが向上するのかという理論が必要なのですが、これがいまひとつ解明されていません。

 実験の中にはトレーニングを行うことでワーキングメモリが向上した事例もなくはないですが、ではどういった理論なのかという説明できない場合があります。

 
 

近転移と遠転移の効果

 ワーキングメモリに限らず、何かのトレーニング効果を測定する場合に「近転移」「遠転移」という概念は重要です。

 近転移とはトレーニング内容に近しい力のことで、ワーキングメモリトレーニングの場合は課題内容とは異なる別のワーキングメモリの力や短期記憶課題を指します。

 遠転移とはトレーニングからかけ離れた力のことで、ワーキングメモリの場合は実行機能や注意機能、その他の認知機能を指します。

 当然、トレーニングを行い幅広い認知機能に効果が出たほうが望ましいです。
 トレーニングによってワーキングメモリだけでなく、知能全体が向上してくれればそれに越したことはありません。

 では、ワーキングメモリに着目したトレーニングは遠転移効果が見られるのでしょうか?
 
 

ワーキングメモリの遠転移効果

 ワーキングメモリのトレーニングはメタアナリシスによる分析によると、遠転移の効果はわずかにあるかもしれない程度にとどまっています。

 ワーキングメモリはその人の知能得点と関りがあることがわかっていますが、ワーキングメモリが向上しても全体の知能が向上するとは限らないと考えられています。

 研究によっては遠転移が生じたトレーニングでも近転移の効果が見られないものもあり、このあたりもワーキングメモリの理論で説明できない矛盾点と言えます。

 
 
 

ワーキングメモリのトレーニング

 
 
 

参考資料

『実行機能の初期発達,脳内機構およびその支援』(心理学評論刊行会)2021年11月6日検索

『ワーキングメモリトレーニングと流動性知能』(日本心理学会)2022年8月6日検索

『発達障害のある児童のワーキングメモリは改善できるのか–広汎性発達障害のある児童を対象とした試み』(東北福祉大学機関リポジトリ)2022年8月6日検索

『Training of Working Memory in Children with ADHD』(ResearchGate)2022年8月6日検索

『前頭前野とワーキングメモリ』(日本高次脳機能障害学会)2022年8月6日閲覧

『記憶とその障害』(一般社団法人 日本高次脳機能障害学会)2022年8月15日閲覧

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