小学校のローマ字はなぜ訓令式なのか?
小学校でのローマ字の指導は主に訓令式での表記法にて行われます。
ヘボン式と比較して訓令式は規則性がある点が理由として挙げられますが、「今までがそうだったから」という慣習の側面も否めないのではと思います。
小学校でローマ字を指導する際の表記法については、議論の余地があると言えるでしょう。
解説
訓令式とヘボン式
ローマ字の表記法は細かく見ると様々ありますが、大きくは「訓令式」と「ヘボン式」が挙げられるでしょう。
訓令式とは例えば「し」を「si」と表記するような、50音表の規則性を重視した表記法です。
これに対しヘボン式は「し」を「shi」と表記するなど、英語圏に近い発音を重視した表記法となっています。
日本社会の中で目にするローマ字(看板や標識など)はヘボン式が浸透していますが、小学校の学習指導要領では訓令式による指導が優先されています。
なぜ訓令式なのか
学習指導要領を踏まえると、小学校で訓令式を優先する理由としては、規則性のある表記法にて「子音+母音」の構造を理解するためと考えられます。
ローマ字の学習は小学校3年生頃から始まります。
このため、「し」を「shi」とするなど例外的な表記が多いヘボン式は子供達にとって負荷が高いと考えられています。
訓令式のような「さ(sa)、し(si)、す(su)、せ(se)、そ(so)」といった規則性があるほうが学習が容易ででしょう。
また、このような規則性がある中で、日本語は「子音+母音」で成り立っているという気づきを促す意図があります。
しかしながら、現代の教育にて訓令式を優先する理由があまりないことも指摘されています。
訓令式による指導への批判
そもそも、街中ではヘボン式が一般的になのになぜわざわざ訓令式で指導をするのか。この点が訓令式指導に対する批判としてよく挙げられます。
また、「子音+母音」の構造を理解することは別にヘボン式でもできます。
確かにヘボン式の表記は例外表記が訓令式より多いです。
しかしながら、英語圏の人が聞くと日本語の音がどう表されるかを学ぶことは重要でしょう。(例えば「si」ではなく「shi」が「し」に近い)
太平洋戦争中を中心に、英語圏に近いローマ字表記が圧力を受けた歴史も含めると、現代の訓令式の教育は慣習がそのままになっている状況も否めないのではないかと思います。
参考資料
学習指導要領「生きる力」『ローマ字に関する事項が第4学年から第3学年に移動している趣旨とその指導に当たっての留意事項について,教えてください。』(文部科学省)2024年6月8日閲覧
長岡由記(2022)『小学校国語科におけるローマ字学習の意義と課題についての検討』(全国大学国語教育学会)2024年6月8日閲覧
『【学生向け】日本語のローマ字表記の推奨形式』(東京大学)2024年6月8日閲覧
堀由紀・アシュール真弓・拝田清(2022)『小学校におけるローマ字指導の現状と課題― 英語科と国語科の連携を視野に入れて ―』(和洋女子大学)2024年6月8日閲覧