クレーン現象はなぜ起こるのか?
クレーン現象は認知発達および言語・コミュニケーション面の発達が成長途中であり充分でない時期に見られると考えられています。
このためクレーン現象は発達障害児特有の症状に由来するものではないとする考えが現在は主流です。
他者への伝達行動が確立されていない時期に、自身の欲求(目的)を達成する手段としてクレーンはしばしば用いられます。
解説
クレーン現象の定義
「クレーン現象」とは、他者の手を道具のように使って自分の要求を達成する行為です。
自分の欲求の達成のために他者の手を引っ張るなどの行為は、健常児においても少なからず見られる行為です。
しかし相手の目を見て淡く手を引っ張るいかにも「手助けしてほしい」行為と、ひたすら対象物だけ見ながら相手の手を引っ張り続ける行為は質的には異なるでしょう。
前者は「意図的伝達行動」であり後者は「意図的操作行動」と解釈できます。
「意図的伝達行動」と「意図的操作行動」は同一の能力ではなく別々の能力と考えられています。
クレーン現象は意図的操作行動の側面を持つ行為と言えます。
人を道具のように使うこと
「意図的伝達行動」と「意図的操作行動」は別々の能力であること、クレーン現象は「意図的操作行動」の側面を持つ行為であることは先ほど述べました。
「クレーン現象は意図的伝達行動ではない」と言えます。
クレーン現象はあくまで人を道具のように使っており、コミュニケーションとしての行動とは言い難いということです。
そもそも道具的に人を使用することと、人とコミュニケーションをとることは別軸であるわけです。
これが何を意味するかと言えば、クレーン現象をずっとやったからといって(それは操作行動であるから)、(伝達行動である)人とのコミュニケーションの練習になっているとは言い難いということです。
クレーン現象と三項関係
クレーン現象の解釈は時代と専門家により様々ですが、その中でも三項関係との関連を述べた説はなかなか興味深いと思います。
三項関係とは「私」「あなた」「物(事)」の3つの要素が成り立っている関係性です。
例えば「ジュース取って」と相手にお願いすることは、「私」「あなた」「ジュース」の3つの要素と関係性を認知できています。
一方で相手の手を道具的に引っ張りジュースを取ろうとすれば、それは「私」と「ジュース」の2つの要素で完結してしまっています。
クレーン現象は三項関係を作るのではなく二項関係に他者を引き入れてしまっています。
補足(三項関係とは?)
参考資料
『発達障害児の「クレーン行動」に関する一考察 : 文献の展望と行動の観察例から』(一般社団法人 日本特殊教育学会)2021年9月15日検索
『精神発達遅滞児における意図的伝達行為の発達とその認知的前提に関する研究』(音声言語医学)2021年10月2日検索