前回、子供が嘘をつく背景について考えました。
前回の記事:子供は何歳から嘘をつくのか?③ ~子供の嘘と親のスタンス~
今日は子供の嘘に対する親の教育方針について考えます。
ある村の羊飼いの少年が、「狼が来たぞー!」と嘘をついてみんなが驚く様子を楽しんでいました。
何度も嘘をつく中で少年は村人から信用されなくなります。
そしてある日、本当に狼が来てしまいます。
「狼が来た!誰か助けて!」
少年は必死に村人に訴えかけますが、誰も信じてはくれません。
羊はみんは狼に食べられてしまい、最後には少年までもが狼に食べられてしまいました。
嘘をつくことの悲惨さを語ったこの物語は誰もが一度は耳にしたことがあるでしょう。
では、オオカミ少年の話を読み聞かせることが、子供の嘘を減らすことに効果はあるのでしょうか?
調査の結果、オオカミ少年の話では子供の嘘は減らず、むしろ少し増えるくらいだということがわかりました。
なぜオオカミ少年の話は効果がないのでしょう?
それはオオカミ少年の話には「嘘をついてはいけない」という教訓しか含んでいないからです。
「嘘はどんなときでも悪いことですか?」
この質問に5歳児の92%は「はい」と答えます。
さらに、「嘘はなぜいけないのでしょう?」と聞くと、
ほとんどの子供は「叱られるから」と答えます。
「嘘をついてはいけない」という教訓はオオカミ少年の話を聞く前から子供たちは知っているのです。別に目新しい教訓ではないのです。
子供は最初、「嘘をつく→叱られる」といった表面上の理由でしか物事を捉えません。
親が子供に教えないといけないのは、そこから一歩踏み込んだ、道徳的なことです。
嘘をつくことは、時として人を傷つけ、自分の信頼を損ないます。だから嘘はいけないのです。けれど幼い子供はそれに気づいていません。
幼い子供にとって「嘘をつかない」ことは「叱られない」ための自己防衛でしかありません。
幼い子供は罰や叱られることに非常に敏感です。
5歳児の38%の子供が「汚い言葉」を「嘘と同一のもの」と考えています。
「汚い言葉」と「嘘」はまったく別物なのに、なぜでしょう?
それはどちらも「叱られる」からです。
「嘘をつけば痛い目をみる」「嘘をついたら叱られる」そのようなことを教えても、子供の嘘は減りません。
「誘惑のパラダイム」の実験を、あるアフリカ西部の学校の子供たちを対象に行いました。
補足記事:子供は何歳から嘘をつくのか?① ~誘惑のパラダイムの実験~
この学校は植民地時代のなごりが依然として残っている学校で、忘れ物をしたり何かミスをすると体罰が日常茶飯事でした。
つまり一般の子供たちより「罰」や「叱られること」に対して恐怖感を持っている子供たちなのです。
この子たちの誘惑のパラダイムの実験結果はどうだったでしょう?
「誘惑のパラダイム」の実験は、のぞき見という「やってはいけない行為を子供がするかどうか」と、あとでそれを問いただしたときに「嘘をつくかどうか」を観察することができます。
調査の結果、
叱られることに恐怖感が強い子供は、そうでない子供より「やってはいけない行為」をするのに30秒~1分ほど躊躇する時間が長かったです。
しかし、結局「やってはいけない行為」をする子供の割合は変わりませんでした。
罰に対して恐怖感を植えつけることは、「やってはいけない行為」を減らすことには役立たないのです。
しかも、恐怖感の強い子供の方がそうでない子供より嘘をつき通す傾向が強かったです。
「嘘をつくことで叱られる」という図式の下、叱られるという「罰」を強いものにしても子供の嘘は減りません。
罰を強くしても子供の嘘をつく頻度は減らないし、むしろ嘘をつきとおそうとうする姿勢を強めるだけです。
では親は「叱る」という恐怖ではなくどのような理解を子供に促せばいいのでしょう?
次回に続きます。
次の記事:子供は何歳から嘘をつくのか?⑤ ~子供の嘘に最も有効な言葉かけ~
【参考文献】
ポー・ブロンソン、アシュリー・メリーマン『間違いだらけの子育て』インターシフト、2011年