前回、子供の嘘に対して有効な言葉かけを考えました。
前回の記事:子供は何歳から嘘をつくのか?⑤ ~子供の嘘に最も有効な言葉かけ~
今日は嘘の発展系である社交辞令や、子供にとっての嘘と良心の関係について考えます。
全然ほしくないプレゼントをもらって、正直「いらない」と思うけれど相手に悪いのでうれしいふりをする。
大人の世界ではよくありますね。
この「相手を気遣う嘘」は何歳くらいからできるものなのでしょう?
子供の虚言行動について研究をしているヴィクトリア・タルウォーが行った実験にこんなものがあります。
子供たちにゲームをさせて、クリアできたら賞品がもらえる。
子供たちはお菓子やおもちゃの賞品を想像して一生懸命ゲームをします。
やっとの思いでクリアしてもらえた賞品は何の変哲もない石鹸。
明らかに子供たちは残念そうな表情。
子供たちがショックから立ち直ったのを見計らって、プレゼントは気に入ったか聞いてみます。
このとき、相手を気遣って「気に入った」と嘘をつけるのは未就学児で4分の1程度です。
小学校に入る頃には約半数が「相手を気遣う嘘」をつけるようになります。
「相手を気遣う嘘」と関連するのが、「告げ口をしない」ことです。
子供は言葉を話し始めてから告げ口がはじまります。
兄妹にお菓子をとられれば親に泣きつくし、興味がある物に指をさして親の注意を引こうとします。
これも一種の告げ口なのです。
子供は親に何かを伝えることを通して言葉を学び、それが告げ口という形になっていきます。
しかしある時期から(具体的には4歳ぐらいから)親や周りの大人が「告げ口は悪いことと」と教え始めます。
そして子供は告げ口をしない、つまり「わかってても言わない」という相手を気遣う嘘をつき始めます。
子供が告げ口をすると親は「そんなこと言わないの」と制します。
けれど、子供は親が思った以上に告げ口を自粛しています。
遊んでいる子供たちを何時間も観察した研究によると、
子供は親に1回告げ口する前に約14回は告げ口を自粛しているのです。
「告げ口はよくない」と何度も何度の自粛し、それでもどうしようもなくなったときだけ親に泣きつく。
けれど多くの親は「また余計なことを言って」と叱ってしまう。
子供たちは私達が思う以上に「大人」なのです。
子供は大人以上に嘘を悪いことと考えています。
だから嘘をついたときに自己嫌悪感は大人よりも子供のほうが大きいです。
子供にとって嘘をつくことは、「自分が良い子である」という肯定感や「正しいことをしている」という自信を壊してしまいます。
大人以上に、嘘は子供を傷つけるのです。
しばしば大人は子供に嘘をつくように仕向けてしまいます。
例えばテーブルの上にあるお菓子を勝手に子供が食べてしまいました。
あなたは怒った顔で「誰がやったの?」と言います。
あなたは誰がしたかわかっているのに、「誰がやったの?」と子供に聞いているのです。
すると子供はばつが悪そうに「わからない」と嘘をつくでしょう。
自分の正直さを試されて、いい気持ちがしないのは大人も子供も一緒です。
親がすべきことは、子供の正直さを試すことではありません。
「これはお客さんが来たときのお菓子だから食べてはだめだったのよ」
「欲しいときはお母さんに一言教えてね」
「とりあえず食べカスをまず一緒に片づけましょう」
などと言うべきなのです。
子供が嘘をついたら、正直さを試すのではなくその背景を汲み取ってあげないといけないのです。
「人生最大の嘘は何か?」こう問われると多くの大人は子供時代についた些細な嘘を挙げるそうです。
大人になってついた大きな嘘より、子供時代についた些細な嘘の方が本人の心の傷には残るのです。
嘘は人間の成長過程に当然あるものです。
しかし同時に、大人以上に子供は嘘に傷つきます。
子供が嘘をつかなくていい環境を親が準備してあげることが大切です。
【参考文献】
ポー・ブロンソン、アシュリー・メリーマン『間違いだらけの子育て』インターシフト、2011年