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子供は名詞と動詞どちらを先に覚えるか?
子供が初期に獲得する語彙は動詞よりも名詞の傾向があります。
つまり初期の言語発達においては、子供は名詞を先に覚える、あるいは動詞よりも名詞の方が語彙として多いと言えます。
これは日本語に限らず英語や中国語といった他の言語でも見られ、人の言葉の発達においてある程度普遍的な傾向と考えられています。
解説
言語発達における名詞優位の普遍性
初期の獲得語彙で動詞より名詞が多い(つまり名詞優位)傾向は、様々な母国語で見られます。
Gentner(1982)の研究によると、英語・ドイツ語・日本語・カルリ語・標準中国語・トルコ語など様々な言語において名詞優位の傾向は見られたようです。
初期の獲得語彙で動詞より名詞が多いという「名詞優位」の傾向は、普遍的な現象でありそのような認知過程が基底にあることが考えられます。
名詞優位の背景
Gentner and Boroditsky(2001)は、「関係相対性仮説」および「自然分割仮説」にて名詞優位の背景を説明しています。
これらの仮説から、事物の名前(名詞)は関係を表す言葉(動詞)より早く獲得されると考えられています。
名詞優位を説明する仮説について
関係相対性仮説
関係相対性仮説とは、名詞より動詞のほうが、それを表す範囲が変動しやすいという考え方です。
例えば「りんご」という名詞と「食べる」という動詞で考えてみます。
名詞であってもその適用範囲にはある程度の幅があります。
丸いそのままのりんごが「りんご」である一方で、切ったりんごも「りんご」です。
しかし「皿の上に乗ったりんご」は「りんご」ではなく、単に「皿」と「りんご」でありその境界線は明白です。
これに対し、「食べる」という動詞はもっと範囲が広く抽象的です。
手に持って口にりんごを運ぶ動作は「食べる」ですし、皿にあるりんごをフォークで刺して食べるのも「食べる」です。
またりんごの皮をむきながらひとかけらつまみ食いするのも「食べる」ですし、すでに口の中に入っていて咀嚼している状態も(たとえ口に入れる瞬間を見ていなかったとしても)「食べる」です。
このように、動詞は名詞と比べるとその言葉がどこからどこまでを指すのかという範囲が抽象的です。またその範囲が名詞よりも変動しやすいです。
子供達は言葉を獲得していく中で、この範囲を知っていかなければなりません。
自然分割仮説
参考資料
『日本の子どもの初期の語彙発達』(日本言語学会)2023年9月30日閲覧