発達の最近接領域(ZPD)とは?
発達の最近接領域とは、「その人にとって誰かのサポート(教えてもらう・手伝ってもらうなど)があればできる領域」のことです。
より平易に言うと発達の最近接領域とは、その子が「簡単にできること」と「難しすぎてできないこと」のちょうど境目にある活動とも考えられます。
教育や療育において「発達の最近接領域」という考えは非常に重要な概念の1つです。
解説
発達の最近接領域の概要
「発達の最近接領域」とは、心理学者であるヴィゴツキー(Vygotsky)が提唱した概念です。
「Zone of Proximal Development」の頭文字を取って「ZPD」と表現されることもあります。
発達の最近接領域とは「自分一人ではできないけれど、サポートがあればできること」であり、「もう少しで一人できること」とも言えます。
発達の最近接領域の教育的意義
「発達の最近接領域」という考えは、子供の発達を促す上で非常に重要な考えです。
誰しも簡単すぎることは退屈ですし、難しすぎることは嫌になるものです。
簡単すぎず難しすぎず、ちょうど良い難易度の課題・活動に取り組むことが一番人を成長させるでしょう。
子供の教育において、課題設定は簡単すぎず難しすぎずちょうど良い難易度が望ましいです。
言葉にすると非常に当たり前です。
しかし、その子にとって「ちょうど良い難易度」の活動はなんなのかという見極めが、意外とできていないものです。
学校現場という一斉に同じ学習を行わせる場面では、その子その子にピッタリ合った活動を提供できているかと言えばいささか疑問が残ります。
また同時に、言葉にせよ運動にせよ計算にせよ情緒にせよ、その子のきめ細かな能力の現状把握ができているかというとそれもまた難しいものです。
このように、「発達の最近接領域」という考え自体は非常にシンプルで当たり前ですが、それを実行しようとすると意外と難しく、だからこそ大事な概念であると考えられます。
発達の最近接領域の具体例
「発達の最近接領域」を踏まえた教育を行うには、その子の発達の現状把握と、その子の成長を促す課題のレパートリーが指導者にあるかが重要になってきます。
例えばある子がハサミを使って紙を切り抜くことができないとします。
しかしこの子はハサミの刃をとりあえず開閉させて、紙に刃を入れることはできるとします。
そして少し大人が紙や持ち手を支えてあげると、ある程度は直線に沿って紙を切ることができるとします。
この場合、
この子の発達の最近接領域は「紙を適当でもいいので自分で切る」および「紙を直線に沿って切る」であることがわかります。
当然これらより、「形を切り抜く」ことのほうが難しいです。
いきなり形の切り抜きを練習させるのではなく、段階的に行います。
まずは紙をでたらめでもいいので切ることに慣れ、その後に線に沿って切ることを覚えます。
それらが自分でできてから、形の切り抜き練習に入ったほうがスムーズであることがわかります。
このように、
その子が達成したい活動のゴールを逆算して、まずはどんな課題が必要かを見定めることが大切です。
おわりに
「発達の最近接領域」がどの段階なのか、またどのくらいの幅を持っているかは人それぞれです。
例えば自分一人で4歳相当の課題ができて、大人の手助けで5歳相当の課題ができる子もいれば、
自分一人で5歳相当の課題ができて、大人の手助けで6歳相当の課題ができる子もいます。
これは「発達の最近接領域」の段階が違うということです。
また、
例えば自分一人で4歳相当の課題ができて、大人の手助けで5歳相当の課題ができる子もいれば、
自分一人で4歳相当の課題ができて、大人の手助けで6歳相当までの課題ができる子もいます。
これは「発達の最近接領域」の範囲が違うということです。
「発達の最近接領域」はある意味その子の伸びしろと捉えることもできます。
「発達の最近接領域」は人によって異なるので、当然これらに合わせた課題設定が重要になります。
参考資料
『「発達の最近接領域」から見たピア・インストラクション』(日本物理学会 J-STAGE)2020年11月3日検索
『発達の最近接領域とは何か;助産学教育のための学習理論』(茨城県立医療大学)2020年11月3日検索