障害受容に関する説である、慢性的悲哀説についてです。
1. 段階説と慢性的悲哀説
自分に障害があった場合、それをどう受け止めるか。
自分の子供に障害があった場合、親としてそれをどう受け止めるか。
障害に対する心理的反応は大きく2つの説があります。
1つは紆余曲折はありながらも、最終的には障害を受け入れることができる、つまり障害受容を主張した段階説。
もう1つは、障害を負った、あるいは障害のある子供を育てる悩みや悲しみは一生続くとされる慢性的悲哀説です。
段階説については以前の記事で書きましたので、今日は慢性的悲哀説についてです。
補足記事:障害受容の段階説 ~子供の障害を受け入れるまでの過程~
2. 慢性的悲哀説とは?
慢性的悲哀説とは、障害のある子をもつ親の悩みや悲しみはずっと続くとされる説で、1962年、Olshansky氏によって提言されました。
主に精神遅滞の子供をもつ親の障害受容に関して述べられた説です。
さらに慢性的悲哀説を支持する看護教育者であるYoung氏は、
障害のある子を持つ親の悲しみは子供が生きている限り一生続き、子供が死ぬときに急激な悲しみが襲い、そして慢性的な悲しみが終わりを告げるとしています。
慢性的悲哀説の主張はネガティブな印象を受けるため否定的に受け入られがちです。
しかしながら、障害のある子をもつ親に対し周囲が安易に「受容すること」を強要するのではなく、悩みや悲しみ、葛藤といった正常な心理的反応をありのまま受け止めることにこの説の深みがあります。
3. 障害受容に関する調査
1981年にWikler氏らは、障害児の親が経験するのは段階的な(いずれは受容できる)悲しみなのか、それとも慢性的な悲哀なのかを探るために、障害児の親と専門家(ソーシャルワーカー)の両方に質問紙調査を行いました。
比較分析の結果、4分の3の親が慢性的な悲しみを経験すると答え、専門家も同様でした。
つまり慢性的な悲哀を感じる人が多数派だったのです。
4. まとめ
以上のように、慢性的悲哀説は一見するとなかなかネガティブに聞こえる説ではあります。
しかし、慢性的な悲哀も正常な反応の1つなのだと認めることは大切なことです。
障害受容において最も重要なのは、「~でなければならない」という価値観の押しつけをしないことです。
障害のある子をもつ親の悩みや悲しみは、必ず受け入れなければならないものではありません。ありのままの気持ちを表現できることが大切です。
また、人の感情とは簡単に言い表わせるものではありません。
段階説と慢性的悲哀説を混ぜ込んだ螺旋形モデルなども専門家の間では述べられています。
5. その他の記事
理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の違い
6. 参考資料
『親が子供の障害を受容して行く過程に関する文献的検討』(J-STAGE)2018年6月3日検索
『親の障害の認識と受容に関する考察-受容の段階説と慢性的悲哀』(障害保健福祉研究情報システム(DINF))2018年6月3日検索
『軽度発達障害児をもつ親への支援』(流通科学大学)2018年6月9日検索