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子供の言葉の発達と存在論的カテゴリー
人が言葉を獲得していく過程には、なんらかの概念的制約が寄与していると考えられています。
その解釈の1つが存在論カテゴリーによる概念制約です。
子供の言葉の発達、とりわけ語彙獲得について、存在論的カテゴリーによる概念的制約の影響を見ていきます。
解説
個別性の有無
子供は初めてのものを見聞きしたとき、「個別性のある事物」か「個別性のない材質」か判断しようとすると考えられています。
人は初めてのものに対して個別性があると判断できた場合、その形に着目します。
反対に、個別性がないと判断した場合はその材質などに着目します。
例えば初めてコップを見たとき、(コップは個別性のある物なので)「コップ」という単語はその物(形)を指す言葉と人は無意識に判断します。
このため、仮に同じガラスで作られた物だとしても「コップ」と「風鈴」は別の物だとわかります。
これに対し、コップの中の水を見たとき(水は個別性のないものなので)「水」という単語はその材質を指す言葉だと解釈します。
このため、コップに入った水もバケツに入った水もどちらも同じ「水」だとわかります。
同じ存在論的カテゴリーの適用
新しい概念・言葉を覚えたとき、その概念・言葉を他の存在論的カテゴリーが同じものに適用する傾向があります。
ガラスでできたコップも陶器のコップもどちらも「コップ」とわかります。(個別性がどちらもある物)
コップに入った水もバケツに入った水もどちらも同じ「水」だとわかります。(個別性がどちらもないもの)
これは同じ存在論的カテゴリーの範囲内であるからです。
「個別性のある材質」の語彙
以上より、「個別性のある事物」か「個別性のない材質」の判断は語彙獲得に影響を及ぼします。
このため、「鉄」や「プラスチック」のような、個別性がある材質の名称は(個別性があるものは材質ではなく形の名称として意識しやすいため)子供にとってわかりにくい傾向があります。
「個別性のある材質」の語彙は獲得が阻害される傾向が考えられます。
個別性のある材質名称の獲得と子供の言葉の発達
参考資料
小林春美(1999)『個別性のある材質名称の獲得の程度と「存在論的カテゴリー」の影響 : 4歳児と6歳児の比較』(一般社団法人 日本発達心理学会)2024年10月19日閲覧