欠乏とトレードオフ思考
欠乏はときとして、人にトレードオフ思考を強いる場合があります。
トレードオフ思考とは、等価交換的な思考のことです。
つまり「○○をするために○○を諦める」といった思考です。
人は「時間がない」「お金がない」「スペースがない」といった欠乏状態になればなるほど、トレードオフ思考が強くなると考えられています。
研究
スーツケースの例え話
行動経済学者のセンディム・ムッライナタン氏らは、欠乏に対する人の心理について、スーツケースの例え話を用いています。
人は旅行の際、スーツケースが小さいと荷物を精査する必要があります。
一方でスーツケースが十分に大きいとき、人はあれこれ荷物を細かく考えず、ざっくりと荷造りをします。
これはお金や時間についても言えます。
人は人生において様々なスーツケースを持っていて、その中でやりくりをしています。
ただしそのスペースを意識するときと意識しないときがあります。
お金がたっぷりあるときは、あれこれ細かいことを考えずにどんぶり勘定を人はしてしまいがちです。
時間についても同様でしょう。
反対にお金がない、時間がないと、「これを買うためにはあれを我慢しないといけない」「これをするためにはあれができなくなる」といったトレードオフ思考が強まります。
考えてみれば当たり前ですが、人は欠乏によってたとえ同じ物事であっても判断の厳しさが変わります。1円や1分の価値が変わってしまうのです。
テレビ購入の実験
ムッライナタン氏らは、欠乏とトレードオフに関する実験を行いました。
被験者らに「テレビを買うために考慮すべきこと」をリストアップしてもらう実験です。
リストアップの例としては、「テレビのサイズを調べる」や「購入場所を決める」などがあるでしょう。
どのような項目をリストアップするか、思いつくかで人々の傾向がわかります。
そして「テレビを買う代わりに何を諦めないといけないか考える」といった類の項目が低所得者の人ほど多かったそうです。
当たり前と言えば当たり前ですが、欠乏がトレードオフ思考を強いるわかりやすい例と言えるでしょう。
時間やお金など何かの資源が不足しているとき、人は自分がすべきことにトレードオフ思考を取り入れざるを得ず、それが心を支配してしまいます。