自然分割仮説とは?
「自然分割仮説」とは、自然に分割できる概念はそうでない概念より単純で、より基本的であるという仮説です。
自然分割仮説は、「人は動詞よりも先に名詞を獲得する」という言語発達の根拠としてよく用いられます。
解説
物と状況
自然分割仮説は、具体的な「物」のほうが変化していく「状況」よりも知覚しやすいという考えです。
例えば犬の散歩をしていたとします。
多くの人は、この「犬」の境目がわかります。
犬の尻尾は犬の一部ですが、犬が散歩中につながれているリードは犬の一部ではないことは明白です。
犬が触れている地面は地面であり、そこに生えているのは「草」であり「犬」ではありません。
このように、具体的な対象・物を人は知覚しやすいです。
一方で、変化していく「状況」は線引きが難しいものです。
例えば犬が歩いて徐々にスピードを上げ走ったとしたら、どこまでが「歩く」でどこからが「走る」なのでしょうか。
このように、具体的な対象・物を人は知覚しやすく、それに比べると「状況」というものはその定義・把握が難しいです。
具体的な対象・物は、その場面から切り出して知覚できる比較的安定した概念であると言えます。
一方で、動作や状況はどこまでがその概念に適用されるのか境目がわかりにくく、また終了すれば目の前からその状況がなくなってしまうという学習のしにくさがあります。
具体的概念と活動状態の変化・叙述的な概念
人や物といった「具体的概念」を人は認識しやすいです。
一方で、「活動状態の変化」や、因果関係のような「叙述的概念」は定義を難しく感じます。
おおむね、「具体的概念」とは言葉において「名詞」として表現され、「活動状態の変化」や「叙述的な概念」は「動詞」など述部を表す言葉で表現されます。
人間の言語発達において名詞は動詞よりも先に獲得される傾向にありますが、その背景には自然分割仮説で説明されるような概念の違いがあると考えられます。
Gentner and Boroditsky(2001)は、言語獲得における名詞優位を説明する根拠の1つとして自然分割仮説を用いています。
参考資料
『日本の子どもの初期の語彙発達』(日本言語学会)2023年9月30日閲覧