絵本「りんごかもしれない」を小児発達学の側面からレビューします。
「りんごかもしれない」の対象年齢はいくつくらいでしょう?
1. 「りんごかもしれない」とは?
男の子が台所でりんごを見つけ、そのりんごを見ながら「このりんごはもしかしたら○○かもしれない」という男の子の妄想で終始進んでいく絵本です。
これはりんごじゃないかもしれない。
メカかもしれない。
きょうだいがいるのかもしれない。
など「りんご」を様々な角度から考えていくおもしろい絵本です。
2. 「~かもしれない」という発想
「りんごかもしれない」は「~かもしれない」という過程の下で話が進んでいくわけです。
この「~かもしれない」という表現は、「その物事が正しい可能性もあるし間違っている可能性もある」という捉え方ができなければ成立しない表現です。
幼い頃、子供はなんでも断定します。
それが真実か真実でないかは別として、自分の考えだけで物事を断定します。
幼い子供は自分の視野でしか物事を捉えきれず、「また別の見方がある」ということに気づけません。
それが成長と共に、次第に多様な考え方ができます。
まさに「~かもしれない」という可能性を考慮できるようになるわけです。
子供の言葉の発達をみる検査で、「質問応答関係検査」というものがあります。
この質問応答関係検査に関する論文において、
「~かもしれない」という表現ができるのはおおむね3歳頃と述べられています。
つまり「りんごかもしれない」という様々な妄想は、3歳以降から意味を理解し楽しめることが予想できます。
3. 「きょうだいがいるかもしれない」
さらに「りんごかもしれない」のストーリーでは、「きょうだいがいるかもしれない」という話題が出てきます。
「りんご」に兄弟がいて、それらは「らんご・るんご・れんご・ろんご」かもしれないと男の子は考えるのです。
男の子の妄想はさらに続き、50全部のりんごの兄弟を想像します。
「あんご・いんご・うんご・・・・」といった具合です。
これは当然、「りんご」の「り」を入れ替えている一種の言葉遊びなわけです。
このりんごの兄弟のくだりを理解するには、
・文字がわかる
・「りんご」という単語の最初の音は「り」
ということが必要でしょう。
子供の発達を見る検査であるKIDS乳幼児発達スケールによると、
平仮名を読めるのは5歳10カ月頃とされています。
また、「りんご」の音を入れ替えて「らんご・るんご」などにする言葉遊びは、しりとりに共通するような言葉の音を抜き出す遊びです。
KIDSと類似した検査である津守式乳幼児精神発達質問紙によると、
しりとりができるのは5歳6カ月頃とされています。
4. まとめ
絵本は自由に読んでいいものです。
字が読めなくても、親御さんが読み聞かせてあげれば充分楽しめます。
だから絵本に対象年齢というものは厳密にはないのかもしれません。
しかし一方で、ある程度子供さんの成長に合わせた絵本であればより有意義な点も否めません。
絵本「りんごかもしれない」を楽しめるのは3歳以降。より内容を理解し楽しむには5歳以降がちょうどよいと考えられます。
もちろん、子供の発達や興味には個人差があります。
あくまで参考程度に、子供さんが絵本を楽しんで読むことを第一に。
5. その他の記事
6. 参考資料
ヨシタケシンスケ『りんごかもしれない』ブロンズ新社、2014年
『質問一応答関係検査1』(J-STAGE)2018年6月20日検索
『質問一応答関係検査2』(J-STAGE)2018年6月20日検索